【読書感想】ウナギが故郷に帰るとき
ウナギと言えば、うな重、蒲焼きやひつまぶしなどのお高い料理に使われているが、スーパーでも簡単に手に入り、身近な魚という印象がある。
しかしウナギの生態については身近な印象とは程遠く、なんとウナギの産卵や交尾などは現代でもいまだに確認されていない。
あの古代ギリシャの学者・アリストテレスも匙を投げた謎の多い魚だったのだ。
この本は、スウェーデンのジャーナリスト、パトリック・スヴェンソンさんが謎の魚ウナギの生態と、ウナギの謎に魅了された科学者たちの奮闘劇、そして作者の幼少期の思い出である、ウナギ釣りを通した父親との交流、向き合い方について書かれた、とても不思議な本である。
ウナギのに向き合った科学者パートにはこんな話もある。
19世紀にはウナギに生殖器さえ発見されておらず、そもそもウナギに性別があるのかどうかも不明だった中、心理学者の ジークムント・フロイトが教授からの依頼で
ウナギの精巣を発見するために400匹のウナギを研究室で延々と解体したという
シュールなエピソードや、20世紀の初頭、デンマークの海洋科学者ヨハネス・シュミットは、ウナギの産卵場所についての研究に一生を捧げ、ウナギは大西洋のサルガッソー海に産卵場を持つと指摘したが、現在もサルガッソー海でウナギの卵は発見されておらず、シュミット博士の研究が正しかったのかどうかは現在も判明していない。
またウナギは大変長生きすることが知られており、ピンキリだが約5年から80年まで生きるらしい。
世界記録では、スウェーデンの南部で飼われていたウナギが、なんと155歳まで生存していたとの記録もあるそう。長生きの代名詞ことカメ級の長寿である。
ウナギは海で孵り、透明なシラスウナギに成長して住処である河口を目指して海を大冒険するが、やっと河に着いたと思ったら人間に捕獲され養殖池に強制移動され、
成長すれば殺されてさばかれて調味料でぎとぎとに味付け、パックに詰められてスーパーに陳列されてしまうのである。
詳しいは原因不明なのだけれど国際自然保護連合(IUCN)に絶滅危惧種に指定されている。
この本を読んだ後に、ウナギを見る目が変わってしまった。
魚売り場でパック詰めされた食品になってしまっているウナギたちも
かつては遠く離れた海から大遠征してきたすごい魚だったのだと思うと、
なんだか食べるのが申し訳なくなるような気持になる。
そもそも貧乏人には手の届く値段ではないけれど……。
身近だと思っていたウナギは、あのぬるぬるとした体表のように人間の理解からもぬるぬるとすり抜けていく不思議な魚だったのだ。