未知の食べ物「タンメン」
うちの近くに、めちゃくちゃおいしいと評判のラーメン屋がある。
いつもおじいさんやおっさんやお兄さんやらが店の前に行列を作っているし、
グーグルマップの口コミでは星が4つとなかなか高い評価がついている。
口コミを見ると、地元の老舗のラーメン屋らしく、長年のファンが絶賛していたり、
わざわざ遠方から食べにきています!や、味は素晴らしいが店員の態度が悪い!!(怒)とか、コロナ対策が甘いので星1です!2度と行きません!!など、そんなにウイルスが怖いなら外に出るなとつっこみたくなるアホな口コミがちらほら散見されるが、圧倒的にここのラーメンは絶品だと褒めたたえる感想が多い。
個人的な経験から、口コミで星3.5以下の店は微妙、3.9以下はまあまあ、4以上だと確実においしいお店だと思っているので、ラーメン屋に行ってみることにした。
昼の12時にラーメン屋に行くと、既に男だらけの行列が完成していた。
最後尾のおっさんの後ろに並んでしばらくすると、私の後ろにもおっさんが並んだ。
ここがオセロの盤面だったら私もおっさんになっていたところである。
列は意外にもスルスル進み、あっという間に先頭になってしまった。
入り口に券売機が置いてあり、醤油、味噌、タンメンなどメニューがたくさんある。
最初は醤油ラーメンにしようかなと思っていたのだけれど、そういえばタンメンって食べたことがないなと思いはじめた。
なんか昔そんなことを言う芸人がいたような……?そもそもタンメンって、あの真っ赤な担々麺とは違うのか?タンメンって一体どんなラーメンなんだろうと急にタンメンのことが気になり始めた。
まあ思っていたラーメンとは違っても、評価が高いお店だしまずいことはないだろうと思って挑戦してみることにした。
そういうわけでタンメンが一体なんなのかろくろく調べないまま、醤油ラーメンから浮気して、タンメン850円の券をポチッと押してしまった。
店内に入ると、男たちが背を向けてズゾゾゾゾとラーメンを啜る音と、一昔前の邦楽が延々と流れている、いかにも下町のラーメン屋という雰囲気のお店だった。
カウンター席に案内され、店員さんにタンメンの券を渡して10分ほど待つと、厨房から無愛想なおじさんがタンメンでーす、と未知の食べ物タンメンを私の目の前にゴトッと置いていった。どんぶりが巨大で完食できるか不安になった。
初めて見るタンメンは野菜が山のように盛られ、豚肉が少し浮いていて、スープは白く、一見普通の塩ラーメンだった。
味はというと、麺はコシがあり、スープもまろやかでおいしいけれどよくある塩味なので、見た目も味も完全に塩ラーメンだった。
そもそもラーメン自体食べるのが数年ぶりという、ラーメン知識が0のラーメン1年生なので、ますますタンメンと塩ラーメンの違いがわからなくなった。
タンメンは見た目の通り大ボリュームで、野菜の山を切り崩した時点でおなかがいっぱいだったのに、麺がどんぶりの底までみっしりに入っており、最後のほうは味わう余裕もなく、外食は絶対残したくない信条を通すためになんとか完食した。
胃が塩分と油でたぷたぷになり体が重い。
お腹がこなれるまで、ちょっとゆっくりしてきたかったが、店外にはまだまだ列ができているし、みんな食べ終わるとササッと帰っていくので私もすぐ帰宅することにした。
帰宅してからタンメンについて調べてみると、
タンメンとは関東発祥のラーメンで、キャベツ、もやし、豚肉を炒めて盛り付け、鶏ガラと塩ベースのスープで煮込んだものらしい。
調理面でも違いがあり、塩ラーメンなどの一般的なラーメンは、完成したスープの中に具材と麺を入れるけれど、タンメンは野菜とスープを一緒に煮込むので、野菜の甘味がスープに溶け出してうまい、とのこと。
私は関西出身なので、どうやらタンメンを知らないのも当たり前だったらしい。
タンメンはなんと東日本限定のラーメンだったのである。
就職を機に関東にきて6年経ち、そばの汁が濃いことや、しらたきが糸こんにゃくであること、8枚切りの食パンが存在するなど食べ物面でびっくりすることが多々あったけれど、食べ物でカルチャーショックを受けることはもうないと思っていたので、まさかラーメンに驚かされるとは思ってもいなかった。
最近感情面が死んでいるので、新しいことを発見したり、驚くような出来事があると、
知ることはとても楽しいことだと思えるようになった。
現在も情勢はお先真っ暗だけれど、まだまだ知らないことがたくさんある。
そう考えれば、先行きの見えない今も楽しく生きれそうな気がするとタンメンの塩分でパンパンに浮腫んだ顔でそう思った。