猫の耳たぶ

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【読書感想】パニック/開高健

昭和に活躍した文豪、開高健のデビュー作「パニック」について、感想を書いてみた。


開高健は釣り紀行の名作「オーパ!」や従軍記者としてベトナム戦争に赴任した経験を元に書かれた「ベトナム戦記」、「闇三部作」などエッセイ、ルポルタージュの名手として有名だが、小説家としてデビューしており、「裸の王様」で芥川賞を受賞している。
小説作品の中でも、デビュー作の「パニック」が情勢的にあまりにもタイムリーな作品だったので再読した。



本作のあらすじは、120年に一度だけ実る笹の実を食べてネズミが大量発生して街中が大騒動になり、
街にあふれたネズミ対策に翻弄される人々を書いた作品である。
主人公は真面目な役所の人間で、ストーリー面では人物描写よりも政府の腐敗や怠慢に焦点が当てられている。
他の登場人物は無能で口が臭い上司、保身にばかり走る役員たちなどまあロクな人間がいない。
主人公はネズミ捕りの名手、イタチを野に放すことを思いついたが、イタチを購入した後、内部の汚職に気づいてしまう。



役所内でごたごたドタバタしている間にも、ネズミの進行は止まらない。遂には人間の赤ちゃんがネズミに食い殺される事件まで発生、
打つ手がなくなった役人たちは、「ネズミ騒動は解決した」と全くの嘘を報道するようにマスコミに指示をする。
そして汚職に気づいた主人公は、なんと左遷させられてしまった。クソの極みである。
ネズミ騒動は、デマの報道で収束となり、主人公の絶望で終了するのかと思いきや、誰もが思いもしなかった、狂気を感じる結末であっさり解決してしまった。


「パニック」は1957年に発表された作品だが、文章がとても綺麗で読みやすく、全く古臭さを感じさせない。

自然災害について、本来国民を守るために存在する政治家たちが、責任の押し付け合いや事なかれ主義に走り、
どうしようもなくなったあげくマスコミの力を頼り捏造した情報を流す。
現実の今でもテレビではウイルスについて恐怖と不安を煽ったり、捏造された情報が平然と流されている。
この作品が書かれた当時、インターネットはまだ存在していないが、今も全く同じことが起きていて、
60年以上前に書かれたとは思えないぐらい、現代に通じている作品だなあと思った。

ネズミパニックの結末について書こうかと思ったのだけれど、
あまりにもあっけなく、衝撃的で狂った最後を迎える。
そしてラストは、日本人のどうしようもない精神に突き刺さる、主人公のもの悲しい一言で幕を閉じる。
社会風刺ものだけれど、ストーリーも面白く、ぜひぜひ読んでみてほしい!
そして開高健作品にどんどんハマってください。



開高健短篇選 (岩波文庫)

開高健短篇選 (岩波文庫)

  • 発売日: 2019/01/17
  • メディア: 文庫